開発現場に派遣を入れるデメリット

20年ほど正社員として研究開発の場で働いて、独立を目指して辞めたのですが、うまく軌道に乗せることができず、生活のために派遣を5年ほど行いました。

過去形なのは、派遣を辞めたからです。

自分自身が派遣に向いていないことも自覚したし、派遣元企業にも派遣先企業にも労働者派遣法はおろか、労働基準法や労働契約法などの労働関連法をしっかりと理解している人間は基本的にいませんでした。

正社員として働いていた頃も、「この派遣の人を正社員として登用したほうがよっぽど役に立つ」と思うことが連日のようにありましたが、これは大戦時から続く慣習によるメンバーシップ型雇用が、ジョブ型雇用を受け入れることができないなどといった問題があるためで、この辺りは以下の本を参考にしていただきたいと存じます。

小熊英二著 日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学

個人的にも問題でしたが、会社としても開発現場に派遣を入れるというのは問題だと思っていて、この点を公に述べている人は見たことが無いので敢えて述べてみようと思います。

結論から言えば、派遣労働者は開発を終わらせると契約が切られるので、なるべく成果を出さないほうがいいのです。

「なるべく」とつけたのは、ある程度の成果を出さないと完全な無能として早々に契約を切られます。

実質的には開発を終わらせないように一生懸命成果につながらない(間違えた)結果を出し続けることと、職場の雰囲気を悪くしないよう、にこやかに過ごせば、派遣先企業が頑張ってくれている限り生活は安泰です。

私自身は、期限以内に平均より高い成果をしっかり出すことが売りなので、そのようなことをやっていると気が狂いそうになります。いわゆるブルシット・ジョブですね。だから辞める必要がありました。

わかりやすく表にまとめると以下になります。

開発成果を出す開発成果を出さない
派遣先企業の開発プロジェクト終わる終わらない
派遣労働者の雇用契約×
終わる

終わらない
派遣労働者の開発成果×
出しても正社員の成果
×
どちらにしても成果にならない
派遣労働者の実績×
実績にならない
×
実績にならない
派遣労働者の自尊心×
あっても意味がない
×
関係ない
派遣労働者の責任法的にない法的にない
派遣労働者の開発成果

○・×は、派遣労働者にとってのメリット・デメリットを表しています。

雇用契約が終わらないというメリットがある点において、生活費を維持するための仕事と割り切れば継続する意味があるでしょう。しかし、そのまま長く仕事を続けたとしても実績が残らず評価もされず、成果を残すことの意味さえ見いだせなくなるため、正社員として開発責任を負うなんてことはできなくなります。

もうちょっと広い視点で、派遣先企業と日本社会のメリット・デメリットを整理しましょう。派遣元企業についても考えた方がいいかもしれませんが、そのあたりはいろいろな参考文献が世の中にはあるため、ここでは述べないことにします。

メリットデメリット
派遣先企業工数を分散できる気がする開発期間増
コスト増
分業化により現場に入れない
現場ノウハウが残らない
偽装せざるを得ない品質問題の発生
経営赤字
倒産
日本社会一時的に雇用確保ができる会社倒産による失業者保護
技術力低下
GDP低下
株価低下
開発に派遣労働者を入れることのメリット・デメリット

短期的にはメリットがありそうに見える派遣労働者の採用ですが、長期的に見れば全くメリットがありません。

現在の労働者派遣法では、派遣労働者が5年以上働いた場合、派遣労働者が申し出れば直接雇用する義務が存在しますが、派遣の無責任意識に慣れてから正社員雇用しても責任感を持てません。有能な派遣労働者を確保したなら、派遣元との契約など関係なく、5年を待たずに早急に正社員化したほうがいいでしょう。

現時点でも低下していますが、このままでは日本のモノづくり品質やこだわりはどんどん落ちていきます。

会社経営者も政治家も、この問題に気付いているとは思えません。